「ちゃん、暇でしょう?」 「暇ですけど、さすがに断言されるとへこみます、監督」 目の前でにっこりと笑う監督に、あたしは思わずそう返した。 うん、そりゃ暇なんですけどね。 だって翼先輩トレセンだし。 「・・・って、あれ?どうして監督がここに?」 飛葉中の監督である西園寺玲さんは、東京選抜の監督でもあるはずで。 だったら今練習中のはずなのに・・・と思ってると、監督がにっこりと笑った。 わぁ、素敵。 「ちゃんに用があって、ちょっとだけ抜けてきたのよ」 「何故でしょう。物凄く嫌な予感がします」 「トレセンの翼が見たくない?」 「なんでもおっしゃってください、監督」 ・・・あたしの口って、素直・・・。 「うぅ・・・翼先輩の名前でついつい条件反射で返事をしてしまいました・・・けど、用事は何なんですか?」 「あら、言ったでしょう?」 「へ?」 にーっこりと監督が綺麗な笑顔で笑った。 「ちゃんトレーナーの知識あったわよね?」 「へ?あ、はい・・・。じゃないとマネジになれなかったですし・・・」 あたしが翼先輩を好きになってすぐ、マネジになりたいと立候補したんだけど、知識のない奴にいられても困る、と言われた。 本当は翼先輩目当ての女の子たちを一掃するための言葉だったらしいんだけど、それに火をつけたあたしは猛勉強した。 サッカーのルール、運動選手のサポートの仕方、応急処置の仕方。 学校の勉強放り出して必死に勉強して、それでもう一度マネジになりたいって言ったあたしに、先輩がOKをくれたわけで。 ・・・うん、あの日々は地獄だった。 今も翼先輩のトレーナーになるために必死に勉強中ですけど。 そんな過去を思い出してると、監督の笑顔がより深くなっていっていた。 ・・・怖い。 「か、監督・・・?」 「そんなちゃんを見込んで、お願いがあるの」 「・・・す、すごく嫌な予感がするんですけど」 思わずじりじりと後ろに下がりながら言うと、あら、と監督がそれはもう綺麗な笑顔で笑ってくれました。 「トレセンの翼見たいでしょう?」 「なんでもします、監督」 |