さん!」
練習が終わって、そうちょっぴり遠慮がちに呼んでくるくりくり目のかわいらしい少年は。
「風祭君!」

パタパタとしっぽを振るかのような笑顔で走ってくる風祭君に、思わず犬耳としっぽが見えていたことは内緒だ。
うん、だってすごく似合う気がするんだもん。

さんってトレーナーの知識があったんだね」
「・・・物凄く意外そうだね、風祭君」
「え!?い、いや・・・そ、そんな・・・!!」
きょろきょろと視線がさまよう。
・・・相変わらず正直な人だこって。

「翼先輩がいるサッカー部に真剣じゃない人間は入れないしね」
「・・・さん・・・」
今は丁度水野君と話をしている翼先輩を見る。
「それにあたしの将来の夢は翼先輩のトレーナーですから!」

今の現状に満足してちゃいけないんですよ、うんうん。
そうこう考えてると、いつの間にか翼先輩と水野君の話に藤代君も参加していて、翼先輩が驚いた顔をした後、しぶしぶって感じの顔をしてこっちを見た。
ぱち、っと目があう。
・・・?なんだ、


「―――!」


「ひぎゃっ!!」

がくん、と多分音がした。
さん!?」
隣、よりちょっと上で風祭君の驚いた声がする。
若干滲んで見える翼先輩の目が驚いたように見開かれてる。

・・・いや、うん、あたしも、すごく驚きました、翼先輩・・・。
どうした?みたいな声が聞こえるし、隣よりちょっと上からは、何かあったの?なんて風祭君の声が聞こえるけど。
ぐわんぐわんと頭の中を何度も何度も響くその声に、あたしの脳は支配されていた。

「ちょ、?どうしたんだよ」
翼先輩が驚いて、あたしに近寄ってくる。
何が起きたんだ、みたいに聞いてくる翼先輩に、あたしは顔に集中する熱にうかされて顔を上げることなんてできなくて。

だって・・・だって・・・まさか。

「つ、翼先輩があたしの名前を呼ぶから・・・!」
「・・・は?」
きょとん、とした顔の翼先輩が目に入る。


「腰が粉々に砕けて立てないんです!!」

先輩の馬鹿!





名前を呼ばれるだけで



( わずかなその組み合わせが貴方の口から出るだけで、こんなにも胸が苦しくなるの )