「さ、わだ、くん?」 宿題のノートを忘れて教室に帰ると、夕焼けに照らされた中、特徴的な茶色の髪の沢田君がそこに居た。 「さん」 ふと気付いて顔を上げて、それから苦笑しながら沢田君があたしの名前を呼んだ。 夕焼けは沢田君の背中から照らされていて、逆光と笑顔に、あたしは息を呑んだ(まるで、今すぐにでも消えてしまいそう)。 「どうしたの?」 ドアで固まっているせいか、固まっているあたしに沢田君が声をかけた。 「あ、しゅ、宿題のノートを忘れちゃって」 そう言うと沢田君が「そうなんだ」と笑ったので、あたしは机に向かって歩き出した(視線が追ってくる気がした)。 ガタリと椅子をどけて机の中からノートを取り出した(一つだけ赤いからすぐわかる)。それを鞄の中に入れて椅子をおさめて、振り返った。 「さわだ、くん?」 情けない声が出てたと思う。 心臓もバクバク言って、ひょっとしたら外に聞こえてしまうかも、なんて汗が伝った。 ぎゅっと握った手は震えて、夕焼けでよかった、なんてあたしは色々と考えた。 (だって・・・) だって、沢田君が振り返って、あたしを見ている。 「さん・・・」 沢田君があたしをじっと見る。 何で目を見てくるんだろう(こっちを向いているだけならまだ、大丈夫だったのに)。 「な、に?」 「・・・・・・・・・・・この問題、分かる?」 ガクリ、と崩れたのは決してあたしだけじゃない。 すぐに外された視線に、もったいなかったな、なんて思いながら、あたしは沢田君に近づいた。 「どこ?」 と沢田君のプリントを覗き込んだ(もう土日過ぎたらイタリアに行くのに、律儀だなぁ)。 「ん、ここ」 と指す問題にあたしは目を向けた。 「・・・ごめん、こんな遅くまでつき合わせて・・・」 苦笑する沢田君にあたしはううん、と首を振った。 どっぷりと暗くなった外に、沢田君が「送るよ」といって、今あたしと沢田君は肩を並べて歩いていく。 この時間がずっとずっと(それこそ永遠に)続けばいいのに、なんて思っていたけど、あっさりと家に着いてしまった。 「それじゃ」 そう言う沢田君に、あたしは思わず沢田君の服を掴んだ。 「さん?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・し、しまったっ! な、何ドラマのヒロインみたいなことしてるんだろう、あたしってば。 ああ、数秒前に戻って、自分を総動員の理性で止めておけばよかった!!なんて後悔しても、もう過ぎた時間は戻らない。 「あ、の」 バクバクと心臓が鳴った。 声も震えていた。 目の前の沢田君は驚いた顔をしてたけど、すぐににっこりと笑った。 「落ち着いて。大丈夫、ちゃんと聞くから」 優しい優しい笑顔で笑われて、あたしは大きく息を吸った。 「何で、イタリアに行くの?」 |