あたしの言葉に、沢田君は困ったように笑った(聞いては、いけない言葉なのかな)。 「親戚の、仕事を継ぎに、だよ」 「今じゃないといけないの?」 追うようなあたしの言葉に、沢田君はまた困ったような顔をした(しつこい女だって思われているんだろうか)。 でも、どんなにしつこくてウザイ女だって思われても、聞きたかった。 だって、それだけじゃ、あんなに強い目になるわけがない。 「何か、大きいものが待ってるんだね」 そう言うと、沢田君は驚いたように目を見開いた(外れて欲しかったことが当たってしまった)。 「、さん?」 「とても大きくて、それはとても辛いことなんだよね」 そうなんでしょう? あたしがそう言うと、沢田君は困ったように笑って、それから一つ頷いた。 「そう、だね。とても大きなものが、待ってる」 そう笑って言う沢田君に、あたしはもう一度聞いた。 「何で、イタリアに行くの?」 あたしの問いに、沢田君はゆっくりと愛しそうに笑った。 「大切な者を、護るためだよ」 「護る、ため?」 沢田君の言葉を繰り返すと、そう、といって沢田君は笑った。 その笑顔は、とても綺麗で、優しさと強さと厳しさと、とにかくたくさんのものを持って沢田君は綺麗に笑った。 「護れなかったら、死んでも死にきれないから」 照れたようにおどけたように笑う沢田君に、あたしは呆然と見ているしか出来なかった。 「そろそろ母さんが心配するから」 それじゃあ、さよなら。 くるりと後ろを向いて歩いていく沢田君に、あたしは涙が出そうになった。 唇を痛いくらいに噛んで、必死に我慢した。 これから沢田君が行くところは、きっととっても辛いところだ。 もしかしたら大切な人を失ってしまうことがあるかもしれない場所で、それくらいに辛くて危うい場所で。 二度と、日本には帰ってこれないかもしれない、そんな場所なんだよね。 (だから、最後の日まで惜しむように毎日学校に来ていたんだ) どんどん小さくなる後姿を、ずっと見ていた。 そんな小さな背中に、全部全部背負って沢田君は途方もない、今みたいな闇の道の中を歩いていくんだね(この位置がとてももどかしくて仕方が無い)。 あたしは、そんな沢田君に、何にも出来ないんだね。 「沢田、綱吉君」 聞こえないように、小さな声で沢田君の背中に向かって呟いた。 堪えきれなかった涙が、ポタリと落ちた(出来ることなら走っていって飛びつきたい、でもそんなことできない)。 「好き、です」 聞こえないように、消えてしまいそうなほどに、呟いた。 好きです、好きです、好き、です。 何にも出来ないあたしだけど、それでも壊れてしまいそうなくらいに哀しいくらいに沢田君のことが好きなんです。 大好き、なんです。 |