「・・・」 指さして幼馴染の名前を言ったあたしの前で、雲雀恭弥は微妙な顔をして固まってしまった。 何、何かおかしなところがあっただろうか。 雲雀恭弥という悪の帝王に囚われた可哀相な私の幼馴染、草壁哲矢。 うんうん、何一つ間違ってないわ。 「さぁ、早くあたしのてっちゃんを返しなさい!」 箒を持ち直して構えると、雲雀の腕は戦意を失ったようにダラリと落ちた。 人を馬鹿にしてるの!? 「言っておくけど、別に僕は草壁を捕らえてるわけじゃない」 「じゃあてっちゃんを返してよ!」 手を差し出して言うと、雲雀が口を開いた、瞬間。 「ーーーーーーー!!!!!」 ドダダダダダと唸るような大きな足音。 この声と足音と、あの向こうからどんどんと近寄ってくる草をくわえた素敵な濃い顔は・・・! 「てっちゃぶふぉぉ!!」 い、たい・・・愛が痛い・・・。 思いっきり全速力で走ってきたてっちゃんがあたしの口を思いっきり塞いだ。 てっちゃん、てっちゃん、愛がものすごく痛いっていうか苦しいっていうか、息が出来ない。 「むーー!むー!!」 「委員長、すみませんでした!ご無礼を!」 あたしの頭を掴んでがっくんがっくん揺らすてっちゃんに、あたしは思いっきり抵抗した。 痛い痛い痛いってば! 「・・・っぷは!もう、てっちゃんってば痛い!それが貴方の愛だってわかってるけど、痛い!苦しい!」 「阿呆!そんなことよりからも謝罪しろ!ご迷惑をかけて申し訳ないと!」 くわっと目と口をかっぴらいて言うてっちゃん。 何よ、あたしよりそっちの人が大切だっていうの!? 「謝らない!あたし悪くないんだから!悪いのはあの帝王!悪の帝王雲雀恭弥よ!」 「どあほぉおおおお!!!!すみません!委員長すみません!いや、もう本当に!」 て、て、てっちゃん、その頭のふりは光速越えるっていうかキモチわるいっていうか、いや、本当に。 「どうでもいいけど、それ静かにさせておいてよね」 煩いから。しれっという雲雀恭弥に、あたしの心の奥底から怒りの炎が燃え上がった。 ちくしょう、なめやがって! 「・・・逃げるの?」 ピクリと雲雀恭弥の肩が揺れた。 隣でてっちゃんがあわあわと震えているけれど、女に二言なんてものはない。 愛するもののためなら、いつだって直球勝負なのだから! 「戦わずに逃げるんだ、並中の雲雀恭弥は!」 腕を組んでフフンと笑うと、雲雀恭弥が振り返った。 やばい、ちょっと・・・怖いかもしれない。 「何だって?」 すぅっと雲雀恭弥が目を細めた。 |