、ちょっといいかな」
骸がいなくて一人で本を読んでいると、綱吉が手招きをしていて、あたしは頷いて立ち上がった。
近寄ると、柔らかい笑顔で笑う綱吉は、骸が唯一忠誠を誓う人。
骸が唯一、ついていってあげますか、と思った人なんだって(あくまでも、あげますか、らしいけど)。


「なぁに?」
あたしに何か用?と首を傾げると、綱吉は一つ頷いた。

「うん、ちょっとと話がしたいなぁって思ったんだけど・・・ダメ?」
そう言って首を傾げる綱吉に、あたしは首を横に振った。
ダメ?っていう綱吉はなんだかちょっと子供みたいで可愛い(って言ったら怒られるのかなぁ)。

「ううん、大丈夫」
骸は(仕事で)いないから暇だし、見ていた本だってあたしには全然理解ができなかったんだもの。
他の人たちはまだ怖いけど、綱吉は骸が大好きな人だから。
それにとても優しくて笑顔で怖くない(あのファミリーのボスとは大違い)。




「で、お話ってなに?」
今度はあたしが首を傾げる番。
テラスに座ってからハルっていう女の人(綱吉の秘書なんだって)が入れてくれた紅茶を一口飲んで、それから綱吉が口を開いた。

「骸と、会ったときの話について聞きたいんだけど」
教えてくれる?と言われて、あたしはうんと頷く。
ゆっくりとあの日を思い出して、あたしは口を開いた。


「えっとね、いつも通りヒラヒラの服を着せられて、空気穴のついたガラスのケースに入れられてたの」

あのファミリーのボスはあたしを置物みたいに置いておくのが好きなのよ。
360度全部から見えるのが『素敵』らしいの、悪趣味ね。


「見えるけどどこにもいけない場所でね、突然骸が来たの」
あのファミリーのボスが血を流して倒れて、骸とあたし以外いなくなって。
それから、あたしに気付いたように近寄ってきて、ガラスのケースを外したの。

何だ、生きているんですか、ってつまらなさそうな顔をして。
「ファミリーの仲間じゃない、って判断して後ろを向いて歩いていく骸の背中に飛びついて、それから一緒にここにきたの」
一杯喋って喉が渇いたから、ハルっていう女の人が入れてくれた紅茶を飲んだ(おいしい)。

すると綱吉が「そっか」と微笑んだ。
「どうして、はついていこうと思ったの?」
目の前で人を殺した人だよ?


うん、そうだね。あたしの目の前であのファミリーのボスを殺した人だけど。
「真っ赤と蒼の眼がとても綺麗だし、あたしに世界をくれた人なの」
ガラスケースから出られなかったあたしに、その透明な壁を取っ払ってくれた人。

真っ赤な目と蒼の目がキラキラ光ってとても綺麗。
けっきょく、つまりはね。


「女のカンってやつなのよ」


付いていこうと思ったのはね。
そう笑うと、綱吉もつられたように笑った。

「なるほど」
俺の超直感も女の人のカンにはかなわないからなぁ、と綱吉は紅茶を見ながら苦笑した。





あの日、貴方と出会う軌跡



( そういえば最近骸がほんの少しだけ笑いかけてんのを見るんだぜ?/武 )