「骸!一体何があったんだ!!」 「・・・すみません」 走ってきたのか少し息荒く怒鳴る綱吉の声に、骸は俯いたまま一言答えた。 その声は震えていた、なんてことはなく、ただ静かに響く声に綱吉は口を噤んだ。 ゆるり、と顔をあげて。 「すみません・・・」 ポツリと呟いた骸の顔はいつも通り、より無表情だった。 「むく」 「罰は後から受けます」 綱吉の呼ぶ声を遮るように言って、くるりと体を翻して骸は歩き出した。 足早に去っていく骸の後姿を、綱吉は呆然と見詰めていた(いまだに扉の向こうではあわただしい声が聞こえていた) ベシャリ、と骸は屋内庭園の一角に腰を下ろした。 座った、というよりは倒れこんだのに近いかもしれない。 地面は冷たくて、その冷たさすらも今は煩わしかった。 身にまとう全てが煩わしくて、分からない感情にただ戸惑っていた。 「何故・・・」 何故、今手が震えているのだろう。 ぎゅっと手を握って、下唇を噛み締めて、冷たい壁に背を預けた。 死、など決して怖いものではなかったはずだ。 人間は、生きているときは浅ましく欲に満ち生に金に執着する愚かな生き物。 死んだときだけ、美しくなれる。 まるで大輪の薔薇のように赤い血を咲かせ、もの言わぬモノになってこそ、人は愚かさから逸脱できる。 そう、それならば。 「彼女が死ぬことは歓迎することではありませんか」 答えは、出ているというのに。 床に落ちている手は震えていた。 彼女を喪失することが怖いとでも言うのだろうか(まさか!)。 手に当たる冷たい土を握り締めた(グシャリとそれは簡単に潰れ手から零れ落ちた)。 グラリと倒れた少女の身体、土色に変わっていく顔色、自分が打ち抜いた、真っ赤な肩。 最後まで名前を呼びつづける声。 最後までずっとずっとずっと、こちらを見つづけた目。 「・・・どうして」 はぁ、と骸は想い溜息を吐いた。 頭の中で回りつづける声が、煩わしくて、もどかしくて、仕方がなかった。 「僕は震えているのでしょうね」 ポツリと呟いたけれど、返事はどこからも帰ってこなかった。 |