「・・・はぁ・・・」
骸は天をあおぎながら溜息を吐いた。


正直、理解できない。
階段から中途半端に見える視線に一瞥をくれて、骸は再び息を吐いた。

正直、まったく理解できない。
が自分を好きだ、ということが。


生まれが生まれのせいか、生きてきた上で好意、というものに触れた覚えがない。
犬や千種が向ける感情が好意的だということはなんとなく察している。
けれど、あのころはまだそれを範疇に入れるには余裕もなくて、そんな風に過ごす間にいつしか犬や千種の思いは当たり前のものになった。



だからこそ。



・・・?」

尚のこと、その好きだ、という感情が理解できない。


「骸、さん」


・・・いや、違う。
理解は、出来ているのだ。

骸は扉の向こうで聞こえたの声に、安堵の溜息を吐いた。
犬や千種、髑髏とはまた違う、爛々と輝いた目に好感を持っていたことは、多分否定は出来なくて。

階段の方でジロリと見つめてくる我等がボスの姿を見て、骸は大きく息を吸う。



「髑髏は――」
ビクリと、震えたのだと。
室内のの気配で感じた。

ふぅ・・・と息を吐いて、そっと扉に触れた。



「髑髏と、犬と、千種は・・・皆僕の部下です」

他人よりは特別だけれど、3人の中に特別など居ない。

ああ、そうか。
彼らとの出会いは絶望の中だったから、希望の中で出会った君は、どうしてこんなにも。



「・・・皆、ぶか・・・」
「ええ、そうです。彼女は庇護する対象であり有能な駒であり、僕の中でそれ以上でもそれ以外でもありません」

ええ・・・と、確か、慰める、んですよね。
ジトジトと突き刺さるような視線にまた一瞥をくれて、骸はそっと扉に触れた。


「君と過ごした時間は、彼女たちと過ごす時間とはまた違った想いで、楽しかったですよ」

一斉に。
視線が集中した(何だか階段にいた彼らの目が真ん丸に見開かれているんですけど)。



ふと、ドアノブがユルリと揺れて、内開きの扉が開いて、骸の胸の中に柔らかな物体が飛び込んだ。

「骸さんっ、骸さんっ!」
ぎゅうぎゅうと強く服を握り締めて繰り返し呼ぶに、骸は柔らかく苦笑して、


そっと、その背中を撫でた。

ゆっくりと、が顔を上げて、骸は少しだけ眉をひそめた。

若干紅い頬からうかがえるのは、きっと恋による恍惚だろう。
その言葉が、開かれるのを待って、

「あたし、は。あたしは骸さんが、好きです」

苦笑をひとつ。


それは彼女への想いではなく、自分の卑小さについて、だけれど。
不安げに目を揺らし頬を染め、唇を振るわせるに、ひとつ答えを。


「やめておきなさい」




君は光にいるのだから。





囁きは奈落へと堕ちる



( それは臆病な僕の孤独を恐れる心から逃げるたった一つの方法 )