あたしは綺麗に苦笑する骸さんの顔を見ているしかなかった。 困ったように片方落ちた眉も、笑顔も、綺麗で、綺麗で。 「どうして・・・?」 あたしの口はそれくらいしか言葉に出来なかった。 紅と青の眼が静かに細まった。 「僕は、輪廻に生きている。例えば僕がを愛したとしても、君は死に、僕は生きつづける――不毛なことこの上ない」 そう右目を嫌うように笑って、骸さんは後ろを向いて。 あたしは、その骸さんの背中に、蹴りを入れた。 「違うでしょっ!」 油断してたせいで床に手をつくように座り込んだ骸さんに、あたしは叫んだ。 「好きって、そんな打算まで考えなくていいっ!確かに、確かに辛いことかもしれないし、あたしは代わってあげらない。でも、思い出って哀しいことばかりじゃない!」 別れを悔やんでメソメソと泣きつづける人は、それを知らないの。 愛するということは難しいことで、待ちつづけるってことも難しいことで。 ひっそりと写真を抱きしめるお母様の強さと脆さが、何よりも綺麗だった。 「お父様とは中々会えなくて、それでも遊んでくれたことを思い出すと、頑張ろうって思うよ。昔飼ってた犬も、あたしが小さいころに死んじゃった。命があるんだもん、だから死んじゃったの。哀しくて辛くて、もう逢えないことがすごくすごく悔しくて、それでも、楽しい思い出があるから」 輪廻を巡る、なんてこと体感したことの無いあたしには全然分からないし。 それはもしかしたら凄い絶望なのかもしれない。 でも、でも、輪廻を巡る人が人を愛した先にあるのは、絶望の末路だけなんかじゃないって、思わなくちゃ。 「別れは悲しくて、でもその分、それ以上に楽しい思い出って一杯あって。それはあたしの生きる糧になって、また明日がやってきて」 明けない夜なんて、世界どこを探したって見つからないのに。 「辛いことばっかりを見てるから苦しくなるの!奇麗事?それでも、そこから動けだせなくなるくらいよりずっとずっといい」 人は死んでいくものだから、こそ。 「あたしは人生長い中で、骸さんからみたら一瞬よりも短い程度しか生きてないかもしれないけど、それでも体がなくなったって想いは生きつづけるってことは証明できる!」 芽が出て、茎が伸びて、蕾をつけて、花が咲いて、種が落ちて、新しい命が生まれるように。 変わらないものなんて無いって言うけれど、きっと変わるものだって無い。 「何も見えてないから必死なんじゃない。これから先にたくさんんことがあるから必死になるの」 世界がこんなにも広い中で、あたしは人ごみに紛れれば消えてしまうほど小さいから。 「輪廻だろうが転生だろうが、それで何で骸さんが我慢する必要があるの!」 バシンと壁を叩いたら、骸はきょとんと目を見開いた。 「ああ、もう!支離滅裂になってきたけど、・・・とにかく。あたしは骸さんが後から、幸せだったなぁって別れを辛いと想う暇もないくらいに好きでいるから、だから」 だから、ねぇ。 「一緒に生きよう?」 飲み込むように、骸がゆっくりと、ゆっくりと一度瞼を閉じて、伸ばしていたあたしの手にそっと触れる。 堪えきれなくて、目から水滴が一つおちた。 「20年後、逢いに来てね。あたしに、一緒に、生きるために」 「・・・ええ。――、」 約束、と小指を絡ませた。 ハリセンボンなんてそんな小さな繋ぎとめなんていらない。 「今から20年後の、今日。この家で」 もうすぐ、あたしが元の世界に帰る時間が近づいてきた。 |