「ねぇ、沢田。何を泣かしてるの」 ギロリと矛先は沢田君に向かって、あたしは急いで首を振った。 「ちが、違うの」 やっと声が出た。 そのままこっちを見た恭弥さんに、あたしはもう一回声を出した。 「あの、あのね、恭弥さん」 「何?」 「恭弥さんは、あたしのこと、好き?」 空気が止まる。 周りの音が聞こえなくて、ただ恭弥さんの言葉を待ってた。 はぁ、と恭弥さんの溜息が聞こえて、あたしの胸がズキリと痛んだ。 「別に、関係ないでしょ」 関係、ない、って・・・。 「関係あるに決まってるじゃないですか!恭弥さんの馬鹿!」 思いっきり叫んだ。 関係ないなんてことない、だってあたしは持っていないのに。 「関係あるよ、大有りですよ!婚約者だからじゃなくて、だって」 ボロボロ体面もなく涙が零れた。 きっと顔は涙でグシャグシャで真っ赤になっててどうしようもないんだと思う。 「だって、あたしは恭弥さんを好きなのに」 口に出したのは、ちょっと久し振りだったかもしれない。 恭弥さんは驚いたみたいにちょっと目を見開いていて、あたしはさらに続けた。 「あたしは持ってないから。欲しいのに、持ってないから」 「何を・・・?」 ぐしゃぐしゃの顔を袖で擦った。 「恭弥さんの、心が見える水晶球を、持ってない」 ピクリと恭弥さんが眉を寄せた。 「恭弥さんの心が見えるだけでいいのに。過去だって未来だって失せ物だって何にもわからなくっても、オブジェにしようもない形の水晶球でも。なんだっていいのに」 その、たった一つなのに。 「持ってないから、分からないの」 拭いても拭いても涙が出てきた。 ごめんね、恭弥さん。恭弥さんの望む賢い女にはなれないみたい。 だって、好きだって気持ちばかりが走って、動く前に考えるなんて出来ないみたいで。 「あたしは、恭弥さんが好きなんです!だから、だから――怖いっ」 何も言わない恭弥さんの横をすり抜けて、あたしは走った。 沢田君とディーノさんの止める声が聞こえたけど、あたしは無視して走った。 神様お願いです、一つだけお願い事をかなえてください。 恭弥さんの心が見える水晶球じゃなくて、恭弥さんの心をください。 そしたらもう、心が見える水晶球が欲しいなんて願わないから。 |