「いや、なんでそうなるの」
訳がわかんない。

そう言うと、ハルが納得したようにうんうん頷いた。
「いいですか!つまりはちゃんは骸さんの偽者の表情を見るのが嫌いなんです!骸さんの本当の表情は好きなんですよね!」
「うん・・・」

「それってつまり、本当の表情の、本物の骸さんを見ていたいってことじゃないですか!」
「んん?」
いや、なんでそうなる。


確かに六道が綱吉の前とかで見せてる顔はいいなぁと思うけれど、それがなんでそんな結果に?
ちゃんはどうして骸さんの声が好きなんですか?」
「いや、それは、六道の声は本物って感じがしたし」

「じゃあ、本物の骸さんは好きってことじゃないですか!」

否定はさせません、みたいな感じでハルが言った。


そんなこと言われても。
ウォークマンを服の上からぎゅっと握った。


六道の声は好き。
あの女子に見せる顔も先生に見せる顔も他のクラスメイトに見せる顔も全部ニセモノだけど、声だけはずっと本物で。

ちょっと低くて、でも低すぎない声。


本物の六道はヒバリとツーリング仲間で結構面白い人間だ。
最近ずっと綱吉の傍にいるせいか、本物の六道と遭遇することも多くなった。

いや、本物偽者とか色々言ってるけど、六道は一人なんだけど。


偽者は嫌いだけど、本物は好き。
面白いし、声は綺麗だし、ちょっとした表情も仕草も、全部、全部。


「キラキラしてる」



目から涙が出そうになって、膝を抱きしめて顔を埋めた。
ハルがポンポンと静かに背中を叩いてくれていたのがすごく落ち着けた。


しらないフリをしていた。


六道が見せる顔は偽者のほうが割合が大きくて、まるで他人を拒絶しているようだったから。

綱吉が幼馴染で本当に感謝した。
だから、あたしは六道の本当を手に入れた。


ウォークマンなんて箱に閉じ込めることができた。
そうやって、本物を閉じ込めていたかったのは、本物が好きだったから。

偽者と逢ったって、本物の声を持っていれば大丈夫って思った。
だから、声を閉じ込めた。

強くウォークマンを握った。


でも、足りない。
箱に閉じ込められた声だけじゃ、たりない。


麻薬みたいに、どんどんそれ以上がほしくなる。
一時間繰り返しの声なんかじゃ足りなくて。


あたしは胸の中に閉じ込めてたそれに、涙が出た。





あたしが欲しいもの



( それは貴方の本当、たったそれだけ )