「六道っ!」 朝、ショートホームルームが終わって、すぐに六道の手を掴んで屋上まで突っ走った。 こっそり、くすねておいた鍵をガチャリと閉める。 何だか心臓がバクバク鳴って、病気みたいになってた。 「一体なんですか、」 「喋ってっ!」 何でもいいから! 目の前で驚いた顔してる六道を見る。 昨日心を落ち着かせようとウォークマンのイヤホンを耳に当てたけど、無理だった。 一つ、最初の言葉を聞いても全然落ち着かなかった。 本物を閉じ込めたあの箱から聞こえる声は、もう古い。 劣化した本物じゃたりない。 「何でもいいから、喋ってっ!」 劣化した声だけじゃたりない。 本当の今六道の口から聞こえる言葉で、本物の表情と一緒でじゃないと、もう足りない。 「本当に、貴方は勝手な人ですね」 一歩六道が近づく足音がして、鳥の声が聞こえて風の音がして葉の擦れる音がして、学校の遠くに聞こえるざわめきがあって。 「声だけじゃ、足りないんですか?」 ああ、そういえば先日は麻薬だなんて表現していましたね。 と、また一歩骸が近づいた。 「人間は、本当に欲深い」 誰かを思い出すように言った。 本当に、人間って欲深いって思う。 何かを手に入れた瞬間、それだけじゃ足りなくなって、もっともっと欲しくなって。 それが恋しいほど、どんどんと望んでいって、足りなくなる。 「けれど、欲深さにも醜い欲深さと綺麗な欲深さがある」 昨日知ったばかりですけど。 まるで披露するように言った六道が、さらに一歩近づいてきた。 あたしのは、きっと醜い欲深さだと思う。 声じゃたりない、表情じゃたりない、どんどん足りなくなっていく。 今だって、そう。 「本当に、貴方は勝手な人ですね」 ゆるりと、六道があたしの手を取った。 「ろく、どう」 「僕の名前は骸です」 その声が、呼んで、といっているようだった。 「骸」 耳元で声がする、骸の手があたしの背中に回って、閉じ込められたのはあたしだった。 「好きだよ、骸」 ぎゅうって抱きしめる力は強くて、涙が出た。 「僕も、愛してます」 |